SIerの不条理な仕事のひとつと近未来

先のエントリSIerのIT翻訳(仲介)ビジネスについて言及しましたが、クライアント〜SIer〜SE〜プログラマという単純な組織関係だったら翻訳ビジネスで済むのですが、大規模なシステム開発なるともう少し複雑な組織関係になり、SIer、特にプライマリのSIerステークホルダー調整」という不条理な役割が課せられます。


クライアント調整

システム開発においてクライアントの組織で関与するのは、おおよそシステム部門(システムのオーナー)とユーザ部門(同ユーザ)になりますが、この二つの組織がいい関係であることは少なく、それぞれが、自らの組織の論理で動き、モノを言い、利害は一致しません。そして、こういったクライアントとの調整は一苦労です。

もうひとつ厄介なのが、企業合併による旧組織間の勢力争いに巻き込まれることです。

いずれのケースに対しても私自身は「コレ」という解決策は持ち合わせていません。どちらかというとロジカルに対応できる問題ではなく感情論的な問題なので、ケースバイケースで対応するしかないと考えています。


SIer/ベンダ間調整

大規模システム開発になるとある部分の開発は他のSIerが担当したり、部分的にASPサービスを利用したり、情報サービスベンダが関わったりと、他のSIerやベンダが関わってきます。

本来であればクライアントが全SIer/ベンダを統括指揮してプロジェクトを進めるのが筋なのですが、そういったクライアントは少なくおよそSIer/ベンダ任せになります。

こうなると企業文化の違いや、システム開発のプロセスに対する考え方の違いなどでSIer/ベンダ間に軋轢が生じプロジェクト全体がうまく進まなくなることがよくあります。

そこで登場する解決策は大体以下の3つかと思います。

  1. クライアントが馴染みのある大手SIerなどを中心にPMOを組織し、そのPMOが全体を統括指揮する
  2. クライアントがプロジェクト全体で大部分・中心を担うSIerに全体の調整・取りまとめ役を任せる
  3. プロジェクト全体で大部分・中心を担うSIerが自ら全体の調整・取りまとめ役を積極的に務める

いずれの解決策でも全体の調整・取りまとめ役となるSIerは、本質ではない仕事をこなさなければならなくなります。

私自身は大規模システム開発プロジェクトの中心となるSIerとなることが多く、そして3の手法をよく使います。プロジェクト発足の時点で登場人物を把握し、最初から全体調整役を担う前提でタスクやスケジュール、要員の計画を立ててしまいます。プロジェクトが動き出してしまえば積極的に動いて「全体調整は我々がやる」という意志を強く見せ、全体のコンセンサスをとってしまう、あとは自分たちの進め方で全体を動かしプロジェクトを推進していくだけとなります。


パートナー会社/オフショア調整

これはクライアント〜SIer〜SE/プログラマという構造の後者の関係です。メインフレーム時代とは違い現在はハードベンダ・ソフトベンダから複数のパートナー会社やオフショア開発、ASPや情報サービスの採用など登場人物は増えマネジメントも複雑化し難しくなっています。


SIerに必要なのは「コミュニケーション能力」?・・・ 否「交渉力」「表現力」「説得力」・・・

こう見てくるとSIerの仕事ひとつ(しかも、大きなひとつ)というのは、システム開発における数多くのステークホルダー間の利害調整だと言えそうです。

そして、それを抽象化して「コミュニケーション能力」というのかもしれません。

IT業界はどのような学生を求めているのか。重鎮たちは「コミュニケーション能力に長けている人」(浜口氏)、「チャレンジングで好奇心旺盛な人」(岡本氏)の2点を挙げた。

しかし、これを「コミュニケーション能力」という一言にまとめてしまうのは、私自身はどうも違和感を感じます。その能力を使う仕事がイメージできない。もう少し具体的な表現である「交渉力」「表現力」「説得力」・・・と言う方がイメージしやすい、伝わりやすいと思うのです。

ちょっと脱線しましたが、SIerというのはクライアントの業務分析、システム要件定義、システム開発という本質の仕事とは別にそれを強力に推し進めていくために、結構なパワーを使っているということです。クライアントに近いところ、プライマリのSIerになればなるほどそういった不条理な仕事が増えるのではないでしょうか。


SIerの近未来

話題を転換して今後のSIer、これからも今のビジネススタイルが続くのかというとそうではないと思います。SI業界全般に多くの問題を抱え自己改善が必須ですし、クライアントや社会全体、外国からの圧力も強くなってなんらかの変革は免れないと思います。

では、どう変わるか・・・結論から言ってしまうと「業界再編」と「特定サービス提供会社への転換」ではないかと思います。

ユーザ企業のシステム子会社のようなところは、戦略的な部分のみユーザ企業のシステム部門に統合され、コモディティ化された部分は大手SIerなどに統合・吸収されるのではないでしょうか。

中小SIerは、人貸しビジネス以外の強みがないところは、大手SIerなどに統合・吸収され、強みを持つところはそれをサービス化することで特定サービス提供会社として生き残っていくのではないでしょうか。

そして、労働集約的なプログラミングはすべて海外へシフトする。。。。


SIerは大手に集約され、業務分析〜システム要件定義は変わらずも(ユーザ側にシフトしていくかもしれませんが・・・)、システム開発SOAやコンポジット・アプリケーションなどの普及により「サービスの選択と統合」に変わっていくのではないかと思います。相変わらずステークホルダー調整という不条理な仕事は引き続き残るけれど・・・


不人気と言われるIT業界を目指す奇特な学生さんへ

まず、「SI業界」と「IT業界」は違うということを認識して下さい。

そして、「SI業界」っていうのはおそらく概ね上記のようなところだと思います。私の主観も結構入ってますので、興味があればもうちょっと色んな方面から多くの話を聞いてみてください。

創造的プログラミングがしたくてIT業界を目指す場合は、間違っても「SI業界」でずっと働こうと思ってはいけません。「クライアントの業界や業務を学ぶ」とか「システム開発全体の工程やその方法論を学ぶ」など目的を明確にし、長くてせいぜい5年までの滞在にして下さい。将来の創造的プログラミングによるモノづくりにも役立つはずです。


来春入社の就職活動はもうほぼ終わっているのかもしれませんが・・・